原著タイトルで、第一章タイトルでもある「Blessed Unrest」。
マーサ・グラハムの、アグネス・デ・ミルに投げかけた言葉の中にある。
『祝福を受けた不安』第一章章扉に、マーサのこの言葉がアグネスの著書
『Dance to the Piper』(New York:Da Capo Press,1980,p.335-36)
より抜粋引用されている。
当時、アグネスが担当したミュージカル『ロデオ』の振り付けの質が、
キャストの入れ替わりなどの問題により悪化していた。
アグネスとマーサは夕食後のひととき、
この件について話し合った。
落ち込み、伏し目がちなアグネスへマーサは励ましの言葉をかけた。
アグネスはマーサの言葉をメモしていた。全文は以下。
————————————————————————–
人には生来、活力、生命力、エネルギー、そして輝きがある。
それらはあなたを通じ、表現として世界に出る。そして、あなたは後にも先にも
唯一の存在。
だからこそ、あなたの表現は、かけがえのないもの。
あなたがそれをブロックしてしまったら表現の場を失い、消失してしまうわ。
あなただけじゃない。「世界」が失うの。
あなたのやったことを良い悪いとか、価値があるとかないとか評価
したり、だれかほかの人と比較したりすることなど、
あなたの知ったこっちゃないし、やるべきことじゃない。わかる?
あなたが気にしなければならないのは、透明になる、
つまり、遠慮せず自分をすべてさらけ出すこと。
たましいも心も身体もすべてまるごと世界に向けてオープンに
開くこと。
それさえすれば、アグネス、あなたは自分自身や
自分の仕事さえ信じる必要はないの。
大切なのはオープンであること。
自分の内側に燃える炎に気づいて。
世界と交信するすべてのチャンネルを全開に。
アグネス、あなたは人とは違う特別非凡な才能に恵まれている。
でもまだその1/3くらいしか使ってないじゃないの。
「でも・・・」と私は言った。
「自分の仕事を振り返るとき、他の人がどう評価するかが
気になるのは当然じゃない?
批評の中に愚劣さ、冷たい欠点のあげつらい、
下品さを探してしまうの。
でもそんなことをしても楽しくないし、ちっとも満足できない」
「批評されて喜ぶアーティストなんていないわよ」
「だったら永遠に満足なんて得られないというわけ?」
「いつだって、何だって、満足なんて、ないのよ!」
マーサは熱くなって叫んだ。
「そこにあるのは奇妙で、神聖な不満足、
そして神の祝福を受けた不安(blessed unrest)。
それがあるからこそ、私たちを前進させ、
より生き生きとさせてくれるの。
あなたを見ていると、イライラして、足腰立たなくなるくらい
蹴っ飛ばしたくなるときがあるわよ」
*註:マーサ・グラハム(1894年- 1991年):アメリカの舞踏家、振付師であり、
モダンダンス開拓者の一人である。マーサ・グレアムと表記されることもある。
1926年に自身のカンパニー「マーサ・グラハム・ダンスカンパニー」を設立。
アグネス・デ・ミル(1905年-1993年):アメリカの振付師。マーサとは親友。
代表作は、『オクラホマ!』(1943)『回転木馬』(1945)、『ブリガドーン』
(1947)など。