『プロフェッショナルの流儀』特集〜⑤ プロの仕事は2倍返し
ちょっと間を空けてしまいました。また、がんばります。さて、これまでの『プロフェッショナルの流儀』特集で、厳しいプロ道について書いてた。読者の方々から、「なぜ、そこまでやらなきゃならないのか?」って質問も聞こえてきそうだね。すでに理由の多くは書いてしまっているのだけど、オレの中にはどうしても譲れない「仕事の掟」がある。自分自身に課している掟ね。
どこかで学んだのか、だれかにそういわれたのか、確かなことはまったく覚えていないのだけど、それはもう若いころからずっと守り続けてきた掟なんだね。こいつがあったおかげで、いまの自分があると思っているし、プロとして仕事をする喜びや感動を味わえてきたんだと信じている。今日は、こいつについて書いてみようかな。これまで見えなかった「世の中の本当の仕組み」なんかも発見できるかもね。
その掟とは……、
「プロの仕事は、いただくギャラの2倍の価値で返す」
なんだね。これだけでピント来る人もいるでしょう。「なんで?」と思う人も当然、いるよね。わかりやすい例は「買い物」だね。自分がなにかの商品を買うことを想像してみて。なんでもいいけど、ある程度、値段の張るもののほうがいいね。100円じゃなくて、10万円以上って感じ。パソコンなんかいいかもね。もちろん、自動車でもOK。それなりに高い洋服でもいいよ。
さて、その商品を買ったあなたは、実際に使ってみて、3つの感想のうちどれかを感じることになる。「得した」「損した」「どちらでもない」の3つだね。でもって、それを決めるのは、
「代金と得られた価値の差額」(得られた価値 − 代金 = 差額)
なんだね。たとえば、一泊10万円のスイートルームを予約したとする。高いよねぇ。ま、その日はクリスマスイブかなんかで、彼女と初の旅行だからちょっと奮発したとしましょう。部屋に入った瞬間、その彼女が「うわぁー、ステキ! こんな部屋に泊まれるなんてうれしい! もっと普通の部屋だと思ってたから、ホントびっくりしちゃったー。ありがとうね! 大好き!」とかいいながら、めちゃくちゃテンション上がりまくりで、ガーっと抱きついてきてキスの嵐。ホテルのサービスも抜群で、そのあともいい雰囲気は続きまくり!
ね、そんな一夜を過ごせたとしたらどうよ。「得られた価値」に換算してみると、20万円とか、へたしたら100万円くらいいっちゃうかもしれないよね。この場合は、「いやー、思いきって10万円出しておいて得した!」って感じられるよね。
もちろん、反対のパターンもある。10万円も払ったんだからと思いきや、なんか狭い部屋でスタンダードとの区別が微妙につきにくいわけ。そんなわけだから、彼女もしれーっとしててね。「いい部屋ね」とかつぶやくだけ。「うわぁ、反応うすっ」とか思いつつ、気を取り直してシャワーでも浴びようとしたら、バスタブのカーテンから生乾きの洗濯物のような微妙な匂いがしたりしてね。「マジかよ」とがっかり。おまけに、深夜になると隣の部屋のHな声がまる聞こえみたいな。
もう、翌朝はものすごい後悔にさいなまれるよね。そのスイートルームから得られた価値は、おそらく1万円くらいのもんでしょ。9万円の大損だよね。で、最初の例と、あとの例の中間くらいもある。「まぁ、10万円ってとこかな」って感じの感想ね。
さて、このスイートルームが自分という商品だとしたらどうだろう。まぁ、これは会社員よりもフリーランスをイメージしたほうがわかりやすだろうね。たとえば、Aさんというデザイナーがある会社からウェブのデザインを依頼されたとしよう。ギャラはしめて100万円。それほど大きなウェブサイトじゃないから、まぁ、こんなもんでしょうという金額ね。
Aさんが普通に100万円の仕事をしたならば、依頼した会社は普通に満足するだろうね。「悪くないね」「うん、いいんじゃない」てな反応かな。感動はないだろうね。担当のスタッフも、社内で非難されないくらいの安心は得られている。じゃあ、この仕事を通じてAというデザイナーはどんな評価を得られたか? おそらくね、
「悪くない。でも、今度はほかのデザイナーも使ってみようかな」
って感じだろうね。10万円のスイートに泊まって「10万円ってとこかな」って感じたのと同じでしょ。
じゃあ、もしAさんが、それこそ命がけで心を込めてウェブサイトを仕上げてきたとする。もう、素人が見ても細部にわたって丁寧に創られているのがわかるわけ。ユーザビリティーとかSEO対策もバッチリでね。社内の反応はきっとすごいよね。「いやー、このウェブなら絶対に成功するよ!」「ずっと見ていたいですよね」。オフィス中が感動の嵐ですよ。この場合のAさんの評価はというと、
「あの人はすごい。これからもずっと彼にお願いしたい!」
に決まっているよね。
こうやって文章にするとね、ごくごくあたりまえのことのように感じるでしょ。でもね、もう少し細かく分析してみると、すごい真実が隠されていることがわかるんですよ。あ、そうそう。Aさんが手抜きした場合の例はいらないよね。書くまでもない。「あんなヤツと二度と仕事するもんか!」で終わりね。
注目してほしいのは、依頼した会社が得たであろう「代金と得られた価値の差額」なんだね。Aさんの最初の例の場合、「代金」と「得られた価値」の差額は「ゼロ円」だよね。次の、Aさんがいい仕事をした例だとどうなるか。おそらく依頼主は「これで100万円は安い」と思っているに違いないよね。どうだろう? 倍くらいの価値があったとしましょうか。すると、「代金と得られた価値の差額」は「100万円」ですね。
はい、ここでAさんというデザイナーは、依頼主の会社に「100万円の貯金をした」と考えるんだね。反対に、もし、手抜き仕事で50万円の価値しか提供できなかったとしたら、「50万円の借金をした」となるわけ。うん、だんだん核心に迫ってきたね。
はい、では、Aさんがその後、10件の仕事を受け、同じように「代金と得られた価値の差額」として100万円づつ各社に貯金したとするよね。その時点で、Aというデザイナーの価値は1,000万円にもなっているということ。ただし、この価値は実際のお金ではないから、目に見えない形として存在することになる。どこに、どんな形で残るのかというと、
「依頼主の心に満足感や喜びとして刻み込まれる」
わけだね。これがデカいんですよ。お金なんて遣えばなくなっちゃうでしょ。でも、この目に見えない貯金ってやつは、半永久に残るんですよ。人の中の強烈な記憶だからね。まぁ、価値としては最強といってもいいね。オレはごくごく個人的にだけど、この価値を「徳」と呼んでいる。つまり、オレにとって「徳を積む」とは、
「“自分がもらった代金”と“依頼主に与えた価値”の差額を貯金すること」
なんですよ。そう考えると、なんと、Aさんは1,000万円分の徳を積んだってことなんだね。すごくない? でもって、この徳が増えればふえるほど、Aさん自身の「この世の中に存在する意味と価値」も高まってくる。もちろん、Aさんに仕事を頼みたいという思いもどんどん大きくなる。業界で愛され、必要とされ、大きな信頼を得られる人になっていくというわけね。
はい、オレがなぜ、「プロの仕事は、いただくギャラの2倍の価値で返す」という掟を守り続けているかわかっていただけたと思う。オレがいうところの「徳を積む」ためなんだね。
会社で給料をもらって働く人の場合、2つの分野でこれができるはず。まずは、自分自身とその雇い主である会社との関係においてだね。毎月の給料が「自分がもらう代金=会社が支払う代金」でしょ。「自分が会社に与えた価値」から給料を引いた額が「徳」になるというわけ。
マイナスになってる人もいるでしょうね。そういう人は徳じゃなくて「借り」を会社に貯めまくってることになる。こいつが本当に危険でね。徳が人々の心と記憶に強烈に刻まれるって書いたけど、「借り」はそれを上回るくらいさらに強力に残っちゃうからね。悪い印象というのは、なかなか消えない。ホント、怖いんですよ。
給料と自分が会社に与えた価値の差額。これも2倍返しを心がけるといいんじゃないかな。年収の2倍の価値をもたらすだけの仕事をするってことね。「労働を金銭に換算するのは難しい」と思うなら、自分が雇い主になったと想像してみればいい。あなたがある社員に月額30万円を払うとする。さて、どのくらいの仕事ぶりを彼に期待するか。じゃあ、その倍の60万円だったらどうか? ね、もちろん、徳を積むためには「その倍」のほうの仕事をするんですよ。
で、2つの分野のもう1つ。これは、自分が勤める会社が販売する商品の価格ですね。企画会議とかでもめるでしょ。商品の価格決め。おそらく、他社の商品との兼ね合いで価格を決める会社が多いはず。でも、本来は「顧客に与える価値の2分の1」っていうのが正しい値付けの基準だとオレは思う。その商品が顧客に与える価値が2万円だったら、上代は1万円ってことね。そうすれば、買っていただいたお客さんの心に1万円ずつ「徳」が貯まっていくことになる。
ただし、清涼飲料水のように、1本120円という相場がガッチリ決まっていたり、そう大幅には価格をいじれない業界だったりすることもある。そのときは価格じゃなく、「顧客に与える価値」の方を変えればいい。120円のドリンクだったら240円分の価値を与えられる商品を開発する。2,000円のCDだったら、オーディエンスに4,000円分の感動を与えられる音楽を創る。これが企画、もの創りの基本だね。
もし、2倍がキツければ、1円でもいいから価値の方を高くしておくこと。そうでないと、その会社は近い将来に顧客からそっぽを向かれることになる。「悪くない。でも、今度はほかのデザイナーも使ってみようかな」と評価されたデザイナーと同じ運命をたどるわけね。会社でやるべきことが明確になるでしょ。いかに、自社の商品の価値を高めるか。ね、これに尽きますよ。
最後に、もう一度、この世の中の仕組みをおさらいしておきましょうね。
我々は「代金と得られた価値の差額」を心に貯金する。もちろん、マイナスの場合も負の貯金が増えていく。「この人に仕事をお願いしたい」「この商品をまた買いたい」そう思うかどうかは、「代金と得られた価値の差額」の貯金残高で決まる。
ね。もちろん、オレの男塾でも受講費の倍の価値を持って帰っていただくことを目指してますよ。というわけで、今日はこれでおしまい!
さて、この2週間ほど、うちのかみさんがイギリスに出張に出ていた。明日の朝、日本に帰国するのだが、ひさしぶりに長い1人暮らしが続いた。まぁ、1人だと生活がすさむこと、すさむこと。1人の時間がたくさんあっていいなぁとか思っていたのは最初の2、3日まで。その後は、その自由さがオレのだらしない部分やいい加減な部分をどんどん大きくしていくだけだとわかったよ。来月、47歳の誕生日を迎えるのだけど、この歳になって、ほおっておくと、東京に出てきたばかりの学生みたいな暮らしぶりになっていく自分にあきれています。根っからの風来坊なんだなと。今日の自分はかみさんあってこそなんだと気づき、あらためて彼女に感謝しているよ、オレ。(おわり)

